フィボナッチ数列に現れる平方数は 1 と 144 だけであることの証明

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 フィボナッチ数列とは
 フィボナッチ数列 とは,「前の 2 つの数を加えると次の数になる」という数列です。
 ただし,1 番目と 2 番目の数は両方とも1です。
   1, 1,
 1 + 1 = 2 ですから,3 番目の数は 2 になります。
   1, 1, 2,
 1 + 2 = 3 ですから,4 番目の数は 3 です。
   1, 1, 2, 3,
 5 番目の数は,2 + 3 = 5 です。
   1, 1, 2, 3, 5,
 このようにしてできる数列が,「フィボナッチ数列」です。
 12 番目までのフィボナッチ数列は,次のようになります。
   1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, …
 12 番目までのフィボナッチ数列の中に,平方数は何個現れているでしょう。
 12 番目までには,1 番目と 2 番目に "1",12 番目に "144"という平方数が現れています。
 "1" と "144"の,2 種類の平方数が現れているわけですね。
 では,13 番目以降には,どんな平方数が現れるでしょうか。

 実は,どんなにフィボナッチ数列を書いていっても,13 番目以降には永遠に平方数は現れないのです。
 このことは,西暦 1964 年にコーンさんによって証明されました。

 このページでは,その コーンさんの証明の内容を見ていきます。ただし,初等数学の知識で理解できるように,(行間を読み取らなくてよいように,)証明を少し変えてあります。

 参考文献
   次の書籍やウェブサイトを参考にしました。

 フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス)―フィボナッチ数、リュカ数、黄金分割
 フィボナッチ数列の中の平方数に関して完全に解説している,日本で唯一無二の本かも知れません。

 素数が奏でる物語 2つの等差数列で語る数論の世界 (ブルーバックス)
 「平方剰余の相互法則の第一補充法則」というカッコいい名前の法則を,この本で理解できました。

 素数はめぐる 循環小数で語る数論の世界 (ブルーバックス)
  循環小数についての本はいろいろ読みましたが,素数との関係がわかりやすく書かれた本です。

 世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議 (ブルーバックス)
  フィボナッチ数列の中の平方数に関する証明の概略が書いてあり,霧が晴れた気持ちになりました。

 144:フィボナッチ数と平方数
  フィボナッチ数列と平方数に関して,完全に証明しているサイトです。

 証明の大まかな流れ
   フィボナッチ数列に現れる平方数は 1 と 144 だけである ことの証明は,次のような流れで進んでいきます。
   第 1 章 フィボナッチ数列を,拡張フィボナッチ数列にします。
   第 2 章 リュカ数列と,拡張リュカ数列を定義します。
   第 3 章 18 個の予備の定理を証明します。
   第 4 章 素因数分解に関する定理を証明します。
   第 5 章 リュカ数列に現れる平方数は,1 と 4 だけであることを証明します。
   第 6 章 リュカ数列に現れる「 2 ×平方数」は,18 だけであることを証明します。
   第 7 章 <最終定理>
      フィボナッチ数列に現れる平方数は,1 と 144 だけであることを証明します。

 証明は,各々のボタンをクリックすれば表示できるようになっていますが,

 すべての証明を   


 第 1 章 フィボナッチ数列を,拡張フィボナッチ数列にします。

 フィボナッチ数列の定義 

 「フィボナッチ数列」とは,1 番目と 2 番目が 1 で,3 番目からは,「前の 2 つの数を加えると次の数になる」という数列です。
   1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, …
 フィボナッチ数列の 1 番目が 1 であることを, と表すことにします。
 2 番目も 1 ですから, です。
 3 番目は 2 ですから, です。
 同じように考えると,次のようになります。
……
 前の 2 つの数を加えると次の数になるのですから, を自然数として,
   <フィボナッチ数列の定義>
   
 となります。


 拡張フィボナッチ数列とは 

 ところで,たし算の逆はひき算ですから,たとえば から, となります。

 同じように考えれば, ……を定義することができて,次のようになります。
 
 
 
 
 
 …………
 このように, ……だけでなく, ……もふくめた,
   …… ……
を,拡張フィボナッチ数列 と名付けることにします。


 拡張フィボナッチ数列の定理 

 先ほど名付けた拡張フィボナッチ数列を,Fn と F-n とをくらべやすいように整理すると,次のようになります。
   
      
      
      
      
   ………   ………
  が奇数のときは, で, が偶数のときは, となっているようですね。
 つまり,
 <拡張フィボナッチ数列の定理>
  が 0 以上の整数のとき, が成り立つ。
 


 第 2 章 リュカ数列と拡張リュカ数列を定義します。
 「フィボナッチ数列」 とは,「 1 番目が 1, 2 番目も 1 で,3 番目からは,前の2つの数を加えると次の数になる」 という数列でした。(→フィボナッチ数列の定義
 「リュカ数列」 は,「前の2つの数を加えると次の数になる」 というところはフィボナッチ数列と同じで,1 番目の数は 1 であることもフィボナッチ数列と同じですが,2 番目が 1 ではなく,3 であることが,フィボナッチ数列と違います。
 リュカ数列は,次のように定義されます。
   <リュカ数列の定義>
 
 リュカ数列を 1 番目から 10 番目まで書くと,次のようになります。
   1, 3, 4, 7, 11, 18, 29, 47, 76, 123,…
 リュカ数列も,拡張フィボナッチ数列のように拡張することができます。
 
 
 
 
 
 …………
 このように, ……だけでなく, ……もふくめた,
   …… ……
を,拡張リュカ数列 と名付けることにします。


 拡張リュカ数列の定理 

 先ほど名付けた拡張リュカ数列を,Ln と L-n とをくらべやすいように整理すると,次のようになります。
   
      
      
      
      
   ………   ………
  が偶数のときは, で, が奇数のときは, となっているようですね。
 つまり,
 <拡張リュカ数列の定理>
  が 0 以上の整数のとき, が成り立つ。
 


 リュカ数列は,「フィボナッチ数列に現れる平方数は 1 と 144 だけである証明」に,大変重要な働きをします。

  第 3 章 18 個の予備の定理を証明します。
 第 5 章以降の定理を証明するためには,18 個の予備の定理を証明する必要があります。
 証明には数学的帰納法を使ったものが数多くあります。

 通常の数学的帰納法は,次のようにして,すべての自然数 に対して定理が成り立つことを証明します。
  •   のときに定理が成り立つのを証明する。
  •   のときに定理が成り立つのを証明する。
  •   のときと, のときに定理が成り立つことを仮定すると, のときに成り立つことが証明できる。
 しかし,拡張フィボナッチ数列や,拡張リュカ数列の定理の場合は, の場合も証明しなくてはならないので,次の場合にも成り立つことを証明しなければなりません。
  •   のときと, のときに定理が成り立つことを仮定すると, のときに成り立つことが証明できる。
 また, が自然数ではなく,マイナスをふくめたすべての整数を表している場合は, のときと のときに定理が成り立つことを証明しなくても,たとえば のときと のときのように,連続していればどんな 2 つの整数を使っても構いません。

 では,18 個の予備の定理を 1 つずつ,証明していきましょう。

 <定理 3-1>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-2>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-3>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-4>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-5>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-6>
  3の倍数=偶数, 3の倍数でない=奇数
 

 <定理 3-7>
  3の倍数=偶数, 3の倍数でない=奇数
 

 <定理 3-8>
  が 3 の倍数でなければ, は互いに素で,
  が 3 の倍数であれば, の最大公約数は 2 になる。
 

 <定理 3-9>
  が整数のとき,
 

 <定理 3-10>
  が整数のとき,
 

 次の<定理 3-11>以降の定理では,「……が で割り切れる 」 という定理が数多く出てきますが,割り算ができるためには, ではないことが前提です。
 しかし,リュカ数列の定義により, であるし, ですから, 以降も正なので, ではありません。
 また, であるし,拡張リュカ数列の定理 により, なので, でないなら, ではありません。
 以上のことから, にはならないことがわかり,安心して割り算できることがわかりました。

 <定理 3-11>
  が偶数のとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-12>
  が整数のとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-13>
  が偶数で 3 の倍数でないとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-14>
  が偶数で 3 の倍数でないとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-15>
  が整数で, が偶数で 3 の倍数でないとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-16>
  が整数で, が偶数で 3 の倍数でないとき, で割り切れる。
 

 <定理 3-17>
が偶数で 3 の倍数でないとき, で割ると あまる。
 

 <定理 3-18>
が 3 の倍数でなくしかも 4 の倍数であるとき, でも でも割り切れない。
 

 第 4 章 素因数分解に関する定理を証明します。
 この章は,次の 4 個の定理を証明するための章です。
 <定理 4-1>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は現れない。

 <定理 4-2>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は現れない。

 <定理 4-3>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は,3 しか現れない。

 <定理 4-4>
 ある整数が,4 で割ると 3 あまる整数で割りきれるとき,その整数を素因数分解すると,必ず 4 で割ると 3 あまる素数がふくまれる。


 この 4 個の定理を証明するために,「補題 4-1」,「補題 4-2」,「フェルマの小定理」,「フェルマの小定理の別の見方」,「因数定理の利用1」,「因数定理の利用2」,「因数定理の利用3」,「定理 4-1」,「定理 4-2」,「定理 4-3」, 「定理 4-4」の順に証明していきます。

 <補題 4-1>
  が素数で, と互いに素な整数のとき, で割ったあまりはすべて異なる。
 

 <補題 4-2>
 整数 を 整数 で割ったときのあまりを とすると, で割り切れる。
 

 <フェルマの小定理>
  が素数で, と互いに素な整数のとき, で割り切れる。
 

 <フェルマの小定理の別の見方>
  が素数で, が整数のとき, で割り切れる。
 

 <因数定理の利用1>
  が 4 で割ると 3 あまる素数のとき,
で割ると,あまりは になる。
 

 <因数定理の利用2>
  が 4 で割ると 3 あまる素数のとき,
で割ると,あまりは になる。
 

 <因数定理の利用3>
  が 4 で割ると 3 あまる素数のとき,
で割ると,あまりは になる。
 

 <定理 4-1>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は現れない。
 

 <定理 4-2>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は現れない。
 

 <定理 4-3>
  が整数のとき, を素因数分解したときに, 4 で割ると 3 あまるような素因数は,3 しか現れない。
 

 <定理 4-4>
 ある整数が,4 で割ると 3 あまる整数で割りきれるとき,その整数を素因数分解すると,必ず 4 で割ると 3 あまる素数がふくまれる。
 
 第 5 章 リュカ数列に現れる平方数は,1 と 4 だけであることを証明します。
 リュカ数列は,1, 3, 4, 7, 11, 18, … と続きます。
 この中で,1 番目である 1 と,3 番目である 4 だけが,平方数であることを証明していきます。

 この章では,リュカ数列 において, が偶数のときは は平方数にならず, が 4 で割ると 1 あまる整数のときは のときのみ平方数になり, が 4 で割ると 3 あまる整数のときは のときのみ平方数になることを証明していきます。

 <n が偶数の場合>
 リュカ数列の偶数番目には,平方数は現れない。
 

 <n が 4 で割ると 1 あまる数の場合>
  が 4 で割ると 1 あまる数の場合,リュカ数列 が平方数になるのは, のときだけである。
 

 <n が 4 で割ると 3 あまる数の場合>
  が 4 で割ると 3 あまる数の場合,リュカ数列 が平方数になるのは, のときだけである。
 


 以上のことから,リュカ数列の偶数番目には平方数は現れず, が 4 で割ると 1 あまる数のときは,1 番目の 1 のみ, が 4 で割ると 3 あまる数のときは,3 番目の 4 のみが平方数であることがわかりました。

 結局,リュカ数列に現れる平方数は,( 1 番目の)1 と,( 3 番目の)4 だけであることが証明できました。

 第 6 章 リュカ数列に現れる「 2 ×平方数」は,18 だけであることを証明します。
 リュカ数列は,1, 3, 4, 7, 11, 18, … と続きます。
 この中で,6 番目である 18 は,2×32 ですから,「 2 ×平方数」の形をしています。
 リュカ数列には, の他には「 2 ×平方数」の形をしているものはないことを証明していきます。

 証明は,n を 8 で割ったときのあまりによって,分けて証明します。

 n を 8 で割ったときのあまりは,0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7 が考えられますが,まず,

 あまりが 1, 3, 5, 7 の場合。つまり,n が奇数の場合。
 次に,あまりが 0, 4 の場合。つまり,n が 4 の倍数の場合。
 次に,あまりが 6 の場合。
 最後に,あまりが 2 の場合。

 このように分けて,証明していきます。

 <奇数番目の場合>
 リュカ数列が奇数番目の場合,「 2 ×平方数」は現れない。
 

 < 4 の倍数番目の場合>
 リュカ数列が 4 の倍数番目の場合,「 2 ×平方数」は現れない。
 

 <n が 8 で割ると 6 あまる数の場合>
  が 8 で割ると 6 あまる数の場合,リュカ数列 が「 2 ×平方数」 になるのは, のときのみである。
 
 <n が 8 で割ると 2 あまる数の場合>
  が 8 で割ると 2 あまる数の場合,リュカ数列 に「 2 ×平方数」は現れない。
 


 以上のことから, が奇数であるときと,4 の倍数のときと,8 で割ると 2 あまる数のとき,リュカ数列 には「 2 ×平方数」となる数は現れず, が 8 で割ると 6 あまる数のときには, という「 2 ×平方数」が現れることがわかりました。

 結局,リュカ数列に現れる「 2 ×平方数」は,6 番目の 18 のみであることが証明できました。
   第 7 章 <最終定理>
      フィボナッチ数列に現れる平方数は,1 と 144 だけであることを
   証明します。
 いよいよ,フィボナッチ数列には,平方数は 1 と 144 しか現れないことを証明するときがやってきました。

 まず, が偶数のときを考えます。そして, が奇数のときは,4 で割って 1 あまるときと,4 で割って 3 あまるときに分けて考えます。
 
 <偶数番目の場合>
  が偶数の場合, のときに平方数となる。
 

 
 <n が 4 で割ると 1 あまる数の場合>
  が 4 で割ると 1 あまる数の場合, のときに平方数となる。
 

 
 <n が 4 で割ると 3 あまる数の場合>
  が 4 で割ると 3 あまる数の場合, に平方数は現れない。
 

 以上のことから,フィボナッチ数列 において, が偶数のときは のときに平方数となり, が 4 で割ると 1 あまる数のときは のときに平方数となり, が 4 で割ると 3 あまる数のときは平方数が現れないことがわかりました。

 結局,フィボナッチ数列に現れる平方数は,1 と 144 だけであることが証明できました。
 おしまい。

(証明終)

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